| 1.がんの原因としての喫煙 |
喫煙は、さまざまながんの原因の中でも予防可能な単一の要因としては最大と考えられています。欧米の研究では、がん全体の30%、特に肺がんの90%近くは喫煙が原因と考えられています。
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| 2.喫煙と関連のあるがん |
喫煙とがんの関連については、これまで動物実験や疫学研究など、さまざまな研究が行われてきました。さらに、これら数多くの研究は総括報告としてまとめられ、1964年に発表された米国公衆衛生総監報告「喫煙と健康」をはじめとして、世界各国で数多くの総括報告書が出版され、肺がんをはじめ呼吸器・消化器系のがんと喫煙との間に因果関係があるとされています。
2002年には、世界保健機構(WHO)の国際がん研究機関(IARC)が、喫煙とたばこ煙のヒトに対する発がん性評価を更新しています。その中で、喫煙とたばこ煙は最も強い「グループ1:ヒトに対し発がん性がある」と判定されています。部位別の概要を表1に示します。
IARCは、喫煙との間に因果関係があるがんとして1986年の評価で、肺がん、口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、食道がん(扁平上皮がん)、膵臓がん、膀胱がん、腎臓(腎盂)がんをあげていました。今回、1986年以降の研究結果を検討した結果、鼻腔・副鼻腔がん、食道がん(腺がん)、胃がん、肝臓がん、腎臓(腎細胞)がん、子宮頸部がん、骨髄性白血病を喫煙との間に因果関係があるがんとして加えています。これらのがんでは、喫煙者におけるリスク(がんにかかる確率)が非喫煙者に比べて20倍以上(肺がん)と報告されている部位もありますが、おおむね2〜3倍のリスク上昇が観察されています。
胃がん、肝臓がん、子宮頸部がんは、それぞれ、ピロリ菌、肝炎ウイルス、パピローマウイルスという微生物感染との関連がありますが、それらの感染の影響を除いても喫煙と関連があるとされました。
鼻腔・副鼻腔がんや腎細胞がんなど、他のがんに比べて症例が少なく、研究も少なかったのですが、数少ない研究でも一致して、喫煙年数や喫煙本数によるリスクの上昇傾向が報告されていることによって、関連があると判定されました。
我が国ではなじみが薄いですが、紙巻きたばこ(シガレット)以外のたばこ(葉巻やパイプ、あるいは葉たばこで豆などをくるんでかむたばこなど)が用いられている国での研究報告によっても、口腔がんや咽頭がんとたばことの因果関係が示されています。
一方、大腸がん、女性の乳がんについては、関連があるのではないかと専門家の間でも議論が続いていますが、食事や運動、ホルモンの状況など他要因の影響が大きく、現時点では喫煙との関連があるとはいえないとされています。
| 表1 |
世界保健機構(WHO)の国際がん研究機関(IARC)による「喫煙とたばこ煙」に対する評価 |
※全体として、「グループ1:ヒトに発がん性がある」と判定されています。
| 部位 |
喫煙の影響 |
禁煙の
効果 |
関連の
有無 |
期間・本数
などによる
影響 |
その他(組織型別など) |
| 口腔 |
◎ |
+ |
お酒との組み合わせでさらにリスクが高くなる。 |
○ |
鼻腔と
副鼻腔 |
◎ |
+ |
組織型別(扁平上皮がん)に検討しても関連が認められる。 |
|
| 鼻咽頭 |
○ |
+ |
EBウイルスの影響は考慮されていないが、それだけでは喫煙者での高リスクは説明できない。 |
○ |
中咽頭と
下咽頭 |
◎ |
+ |
|
○ |
| 食道 |
◎ |
+ |
組織型別(腺がん、扁平上皮がん)に検討しても関連が認められる。お酒との組み合わせでさらにリスクが高くなる(扁平上皮がん)。 |
|
| 胃 |
◎ |
+ |
お酒やピロリ菌の影響を除いても、喫煙の影響がある。 |
○ |
大腸
(結腸・直腸) |
* |
|
喫煙者での高リスクについて、他の要因の影響を否定できない。 |
|
| 肝臓 |
◎ |
+ |
肝炎ウイルスの影響を除いても、喫煙の影響がある。 |
○ |
| 膵臓 |
◎ |
+ |
お酒の影響を除いても、喫煙の影響がある。 |
○ |
| 喉頭 |
◎ |
+ |
|
○ |
| 肺 |
◎ |
+ |
がんの組織型別(扁平上皮がん、小細胞がん、腺がん、大細胞がん)に検討してもそれぞれ関連が認められる。 |
○ |
| 女性乳房 |
- |
|
喫煙者でのリスク上昇が、他の要因の影響で説明ができる。 |
|
| 子宮頸部 |
◎ |
+ |
パピローマウイルスの影響を除いても、喫煙の影響がある。 |
|
| 子宮体部 |
- |
|
喫煙者でのリスク上昇は他の要因の影響でも説明ができる。また、閉経後女性では喫煙する人の方がリスクが低い傾向がある。 |
|
| 前立腺 |
* |
|
喫煙者での高リスクについて、他の要因の影響を否定できない。 |
|
| 尿路 |
◎ |
+ |
移行上皮がんだけでなく、腎細胞がんでも関連がある。 |
○ |
| 白血病 |
◎(骨髄性) |
+ |
リンパ性白血病やリンパ腫については、研究報告が少なく、結果も一致していない。 |
|
| その他 |
* |
|
研究報告が少なく、結果も一致していない。 |
|
| 関連の有無 |
|
| |
◎ |
: |
因果関係がある |
| |
○ |
: |
リスク上昇と関連がある |
| |
* |
: |
関連があると判断できない |
| |
- |
: |
関連がない |
| 期間・本数などによる影響 |
| |
+ |
: |
期間が長い、本数が多いほどリスクが高い |
| 禁煙の効果 |
| |
○ |
: |
禁煙によりリスクが低くなる効果がある |
| |
- |
: |
禁煙後もリスクが高いままである |
(空白):記載なし
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| 3.喫煙とがんの関連の大きさ |
喫煙と関連があるがんについては、喫煙年数が長いほど、1日の喫煙本数が多いほど、また、喫煙開始年齢が若いほど、がんの危険性が高くなります。
表2に、我が国における喫煙による相対リスク(非喫煙者と比べて喫煙者が何倍がんにかかりやすいか、ということを表す指標)と人口寄与危険(がん患者の中で喫煙が原因と考えられる割合)を示しました。喉頭がんでは、相対リスクが男性が32.5倍、女性が3.29倍と高く、次いで肺がん、口腔・咽頭がん、食道がんなどで高くなっています。女性の相対リスクが男性に比べて低いのは、女性の喫煙者の喫煙本数や年数が少ないためと考えられます。実際、喫煙率が減少し男女差が小さくなった米国では、肺がんの死亡率の男女差も小さくなりつつあることが報告されています。
人口寄与危険については、男性の喉頭がんで96%と、ほとんど喫煙が原因と考えられます。女性の人口寄与危険度が男性に比べて低いのは、相対リスクが低く、女性の喫煙率が低いことが関係しています。表3には、米国における2つの時期の喫煙による相対リスク及び寄与危険割合をがんの部位別に示しました。男性の喉頭がんを除き、我が国での喫煙による相対リスク及び人口寄与危険割合は、米国に比べて低い傾向にあります。この理由として下記のことがあげられます。
・我が国において喫煙習慣が普及した時期が米国に比べて約20年遅い。 ・第二次世界大戦中から戦後にかけてたばこ欠乏期があった。 ・喫煙習慣の普及とほぼ並行してフィルターつきたばこがシェアを伸ばしたため、フィルターなし(両切り)たばこや葉巻など強いたばこの普及期間が短かった。 ・喫煙開始年齢が比較的遅い。 ・食習慣(例えば、脂肪摂取が少ない)など喫煙による効果を減らす要因が存在する。
米国において、20年の間隔をおいて行われた2つの研究(第1期、第2期)を比べると、ほとんどの部位において、第2期の研究における相対リスクのほうが高い値を示していますが、この第2期の結果は、喫煙習慣が1960年代にピークを迎え一定の期間を経て、その影響が最大級にあらわれている、と解釈されています。我が国においても表2の研究以降、いくつかの大規模研究において喫煙の影響が確認されつつあり、喫煙による相対リスクの動向を確認する必要があります。
| 表2 |
日本における喫煙とがん死亡についての相対リスク*と人口寄与危険** |
| 部位 |
男 |
女 |
| 相対リスク |
人口寄与危険(%) |
相対リスク |
人口寄与危険(%) |
| 全部位 |
1.65 |
32 |
1.32 |
5 |
| 口腔・咽頭 |
3.00 |
61 |
1.05 |
0 |
| 食道 |
2.24 |
48 |
1.75 |
9 |
| 胃 |
1.45 |
25 |
1.18 |
3 |
| 結腸 |
1.27 |
17 |
0.84 |
-2 |
| 直腸 |
1.22 |
15 |
0.99 |
1 |
| 肝 |
1.50 |
28 |
1.66 |
9 |
| 胆嚢胆管 |
1.23 |
15 |
1.32 |
3 |
| 膵 |
1.56 |
28 |
1.44 |
6 |
| 喉頭 |
32.50 |
96 |
3.29 |
22 |
| 肺 |
4.45 |
72 |
2.34 |
16 |
| 女性乳房 |
|
|
1.28 |
4 |
| 子宮頸部 |
|
|
1.57 |
7 |
| 卵巣 |
|
|
1.19 |
6 |
| 前立腺 |
1.00 |
-3 |
|
|
| 腎 |
1.06 |
0 |
0.24 |
-6 |
| 膀胱 |
1.61 |
31 |
2.29 |
11 |
資料:計画調査(1966〜1982年)
* 相対リスク:非喫煙者と比べた場合の喫煙者におけるがんの危険性
** 人口寄与危険:がん患者の中で喫煙が原因と考えられる割合(%)
| 表3 |
米国における喫煙とがん死亡についての相対リスク*と人口寄与危険** |
| 第1期がん予防研究(1959〜1965年) |
| 部位 |
男 |
女 |
| 相対リスク |
人口寄与危険(%) |
相対リスク |
人口寄与危険(%) |
| 口腔・咽頭 |
6.33 |
74 |
1.96 |
27 |
| 食道 |
3.62 |
57 |
1.94 |
14 |
| 膵 |
2.34 |
41 |
1.39 |
14 |
| 喉頭 |
10.00 |
84 |
3.81 |
47 |
| 肺 |
11.35 |
86 |
2.69 |
40 |
| 子宮頸部 |
|
|
1.10 |
|
| 腎 |
1.84 |
36 |
1.43 |
17 |
| 膀胱 |
2.90 |
53 |
2.87 |
36 |
| 第2期がん予防研究(1982〜1986年) |
| 部位 |
男 |
女 |
| 相対リスク |
人口寄与危険(%) |
相対リスク |
人口寄与危険(%) |
| 口腔・咽頭 |
27.48 |
92 |
5.59 |
61 |
| 食道 |
7.60 |
78 |
10.25 |
75 |
| 膵 |
2.14 |
29 |
2.33 |
34 |
| 喉頭 |
10.48 |
81 |
17.78 |
87 |
| 肺 |
22.36 |
90 |
11.94 |
79 |
| 子宮頸部 |
|
|
2.14 |
|
| 腎 |
2.95 |
48 |
1.41 |
12 |
| 膀胱 |
2.86 |
47 |
2.58 |
37 |
* 相対リスク:非喫煙者と比べた場合の喫煙者におけるがんの危険性
** 人口寄与危険:がん患者の中で喫煙が原因と考えられる割合(%)
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| 4.禁煙の効果 |
禁煙することにより、肺がんのリスクは減少し、禁煙後10年で、喫煙継続者に比べてリスクが1/3〜1/2にまで減少します。ただし、喫煙と関連する他の疾患に比べると、リスク減少の程度はゆっくりしています(循環器病では、禁煙後5〜10年程度でほぼ非喫煙者のレベルに低下します)。若い年齢で禁煙するほど効果は大きいですが、どんな年齢で禁煙をしても、喫煙継続者に比べて確実にリスクは減少します。
その他、IARCの評価では(表1)、尿路系のがん、口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、膵臓がん、胃がん、肝臓がんで禁煙によりリスクが減少すると判定されています。ただ食道がんでは禁煙後もリスクが高いままであると判定されています。
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| 5.喫煙ががんを引きおこす仕組み |
たばこの煙の中には、たばこ自体に含まれるものだけでなく、不完全燃焼に伴う複雑な化合物が数千種類含まれているといわれますが、その中には、多環芳香族炭化水素化合物やニトロソアミン類をはじめとする発がん物質が数十種類含まれています。発がん物質の多くは、体内で代謝される際に活性型に変化したのち、DNAと共有結合をしてDNA付加体を形成します。このDNA付加体がDNA複製の際に、遺伝子の変異を引きおこします。こうした遺伝子変異が、がん遺伝子、がん抑制遺伝子、DNA修復遺伝子などにいくつか蓄積することによって、細胞ががん化すると考えられています。喫煙者の肺がん患者さんの肺がん細胞には、がん遺伝子やがん抑制遺伝子に変異が多く認められます。また、多環芳香族炭化水素化合物がDNA付加体を形成する位置に一致して、遺伝子変異が認められます。
喫煙者に生じた肺がんでは、こうした遺伝子変異が非喫煙者の肺がんよりも多くみられ、悪性度が高いことが知られています。
がん化の仕組みにはまだ不明な点も多いですが、遺伝子・タンパク質そのものの変異・変化や、遺伝子・タンパク質の組み合わせの変化を調べることによって早期診断や治療法の選択ができる可能性があります。がん化の仕組みにおいて喫煙がどのように影響するのかということも含め、研究が進められているところです。
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| 6.喫煙の影響の受けやすさ |
ベンツピレンなどの多環芳香族炭化水素化合物やニトロソアミン類は、薬物代謝酵素による解毒過程で生成される中間物質の化学的活性が強く、これらの中間物質がDNAと共有結合してDNA付加体を形成し、遺伝子変異につながります。こうした薬物代謝酵素の活性は遺伝的に決定されており、喫煙の影響を受ける度合いは遺伝的要素が関連している可能性があります。また、たばこへの依存性についても研究が進められ、禁煙支援のための知見も増えつつあります。
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| 7.受動喫煙・環境たばこ煙の影響 |
喫煙は、喫煙者本人だけでなく周囲の非喫煙者にも影響を及ぼします。これを受動喫煙、あるいは環境たばこ煙といいます。受動喫煙・環境たばこ煙の影響のうち、配偶者が喫煙する場合では、肺がんリスクが女性では20%、男性では30%程度増加し、職場でのたばこ煙への曝露については、16〜19%程度増加すると推定されています。
乳がんでは受動喫煙との関連があるとする研究がいくつかあるものの、全体として結果が一致していないこと、たばこ煙にさらされる程度による影響の強さに傾向が認められないこと、また、自身の喫煙(能動喫煙)では関連がないのに受動喫煙との関連が説明できる背景がそろわないこともあって、受動喫煙との関連があると判定されていません。
小児がんでも受動喫煙との関連を報告する研究はありますが、関連があると判定されていません。妊娠期間中の喫煙について、小児がん全体で関連が認められていても個別のがんでは関連が認められないこと、父親の喫煙によるリンパ腫の増加も、偏りや他の要因の影響を否定できないこと、によるものです。
その他、鼻咽頭がん、鼻腔・副鼻腔がん、子宮頸部がん、胃や腸のがん、また、すべてのがんをまとめた検討がなされていますが、研究が少ない上に結果が一致しないため、判定はされていません。また同じ部位で、能動喫煙で認められないような関連が、受動喫煙では認められる背景が説明できないことも、判定できない理由のひとつです。
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