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 1.肺がんとは
1)肺の構造と働き
2)肺がんの発生
3)肺がんの統計
4)肺がんの組織分類
5)肺がんの原因と予防
6)肺がん検診
 2.症状
 3.診断
1)気管支鏡検査
2)穿刺吸引細胞診(せんしきゅういんさいぼうしん)
3)CTガイド下肺針生検
4)胸膜生検
5)リンパ節生検
 4.病期(ステージ)
1)非小細胞肺がん
2)小細胞肺がん
 5.治療
1)外科療法
2)放射線療法
3)抗がん剤による化学療法
4)内視鏡治療(レーザー治療)
5)免疫療法など
 6.病期(ステージ)別治療
1)非小細胞肺がん
2)小細胞肺がん
 7.治療の副作用と対策
1)外科療法
2)放射線療法
3)抗がん剤による化学療法
 8.生存率・予後
1)非小細胞肺がん
2)小細胞肺がん

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肺がん(はいがん)

1.肺がんとは


1)肺の構造と働き
胸部臓器の位置と名称(小)
肺は呼吸器系の重要な臓器であり、心臓、気管、食道、リンパ節からなる縦隔(じゅうかく)という部分をはさんで胸の中に左右2つあり、左肺、右肺と呼ばれています。右肺は葉と呼ばれる3つの部分からなり(上葉、中葉、下葉)、左肺は右肺よりわずかに小さく上葉と下葉に分かれています。肺は身体の中に酸素をとり入れ、二酸化炭素を排出します。空気は口と鼻から咽頭・喉頭を経て気管を通り、気管支と呼ばれる左右の管に分かれ左右の肺に入ります。気管支は肺の中で細気管支と呼ばれるより細い管に分枝し、木の枝のように肺内に拡がり、末端は酸素と二酸化炭素を交換する肺胞と呼ばれる部屋となっています。


2)肺がんの発生
肺がんは気管、気管支、肺胞の細胞が正常の機能を失い、無秩序に増えることにより発生します。最近、がんの発生と遺伝子の異常についての研究が進んでいますが、細胞がなぜがん化(無秩序に増える悪性の細胞に変わる)するのかまだ十分わかっておりません。がんは周囲の組織や器官を破壊して増殖しながら他の臓器に拡がり、腫瘤(しゅりゅう)を形成します。他の臓器にがんが拡がることを転移と呼びます。
3)肺がんの統計
肺がんになる人は世界的に増加傾向にあります。2015年には、わが国での肺がんの1年間の新患者数は男性11万人、女性3万7千人になると予想されています。50歳以上に多く、男女比は約3:1です。1999年の肺がんによる年間死亡者数は約5万2千人であり(がんで亡くなった方は約29万人、うち胃がん約5万人)、1993年からは肺がんは男性のがん死亡率の第1位となり、女性では胃がんについで第2位となっています。肺がんの5年生存率(治療開始から5年間生存している割合)は25〜30%といわれています。
4)肺がんの組織分類
肺がんは、小細胞がんと非小細胞がんの2つの型に大きく分類されます。

非小細胞肺がんは、さらに腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん、腺扁平上皮がんなどの組織型に分類されます。肺がんの発生しやすい部位、進行形式と速度、症状などの臨床像は多彩ですが、これも多くの異なる組織型があるためです。腺がんは、わが国で最も発生頻度が高く、男性の肺がんの40%、女性の肺がんの70%以上を占めています。通常の胸部の写真で発見されやすい「肺野型」と呼ばれる肺の末梢に発生するのがほとんどです。肺がんの中でも他の型に比べ臨床像は多彩で、進行の速いものから進行の遅いものまでいろいろあります。次に多い扁平上皮がんは、男性の肺がんの40%、女性の肺がんの15%を占めています。気管支が肺に入った近くに発生する肺門型と呼ばれるがんの頻度が、腺がんに比べて高くなります。大細胞がんは、一般に増殖が速く、肺がんと診断された時には大きながんであることが多くみられます。

小細胞がんは、顕微鏡で見るとリンパ球に似た比較的小さな細胞からなっており、燕麦(えんばく)のような小型の細胞に見えることより、燕麦細胞がんとも呼ばれています。小細胞がんは肺がんの約15〜20%を占め、増殖が速く、脳・リンパ節・肝臓・副腎・骨などに転移しやすい悪性度の高いがんです。しかし、他の組織型の肺がんと異なり、抗がん剤や放射線治療が非常によく効くがんです。また、約80%以上では、がん細胞が種々のホルモンを産生しています。しかし、ホルモン過剰による症状があらわれることはまれです。
5)肺がんの原因と予防
肺がんの原因のすべてが解明されてはいません。それゆえ、確実な予防法もありません。しかし、喫煙が大きな要因(危険因子)としてあげられます。特に小細胞がん、扁平上皮がんは喫煙との因果関係が深いといわれています。たばこを多く吸う人ほど肺がんにかかりやすくなり、一般に「重喫煙者(1日の本数×喫煙年数=喫煙指数が600以上の人)」は、肺がんの「高危険群(リスクの高い人)」といわれています。毎日喫煙する人は非喫煙者に比べ、約4.5倍肺がんのリスクが高くなります。また、喫煙の開始年齢が若いほどリスクが高くなり、20歳以下に喫煙を開始すると非喫煙者に比べ、リスクは6倍近くなります。1998年の集計では、わが国の20歳以上の男性の喫煙率は55.2%と先進諸国の中ではトップです。また、20歳以上の女性の喫煙率は13.3%です。喫煙は喫煙者本人だけでなく、周りの人にも影響をおよぼすといわれています(受動喫煙)。10〜20%の肺がんは、喫煙と関係ないといわれています。大気汚染や他の環境要因、放射性物質、アスベストなどとの関連も指摘されています。現在、発がんを抑制する遺伝子および薬物・食物の研究が行われていますが、一般に利用されるほどの成果は、まだみられておりません。

栄養に関して、緑黄野菜・果物に多く含まれているベータカロチン摂取量が多いと、肺がん発生率の減少が認められると報告されました。それをもとに、ベータカロチンの補給により、肺がん発生率を減少しうるかどうかの化学予防と呼ばれる臨床試験が行われましたが、結論は否定的です(詳しくは「食生活とがん」の項を参照して下さい)。
6)肺がん検診
昭和62年から老人保健法により、各市町村で肺がん検診が導入されています。1991年には、肺がん検診受診者数は550万人を超え、このうち2,200人が肺がんと診断されています。多くの市町村で、早期発見や禁煙指導などの健康教育、講習会やパンフレット配布を行っています。その他、肺がんをなくす会などの団体による検診も行われています。検診で発見された肺がんの比率は、全肺がんの10%未満ですが、咳、痰、血痰などの自覚症状で発見された肺がんに比べ、検診で肺がんが発見された場合の病期は早期のものが多い結果となっています。

肺がん検診は、一般的には胸のレントゲン写真と喀痰細胞診(かくたんさいぼうしん)と呼ばれる痰の検査により行われております。最近は、ヘリカルCTと呼ばれる肺のX線断層検査が約15秒間で行われるようになり、より小さな肺がんも発見されるようになっています。

肺の奥のほうにできる肺がんは(肺野型)、レントゲン写真でよく発見されます。喫煙ともあまり関係がないので、40歳以上の方は、年1回は少なくとも検査する必要があります。

一方、肺の入口にできる肺門型のがんは喫煙と深く関係しています。レントゲン写真に映りにくいのですが、痰の中にがん細胞がこぼれ落ちてくることが多いので、痰の細胞検査で早期に発見することができます。特に50歳以上の重喫煙者の方は、肺の入口の部分のがんにかかる率も高いので、痰の細胞診も定期的に行う必要があります。

2.症状

なかなか治りにくい咳や胸痛、呼吸時のぜーぜー音(喘鳴:ぜいめい)、息切れ、血痰、声のかれ(嗄声:させい)、顔や首のむくみなどが一般的症状です。扁平上皮がんや小細胞がんに多い肺門型の肺がんは、早期から咳、痰、血痰などの症状が出現しやすいものです。腺がんに多い肺野型の肺がんは、がんが小さいうちは症状が出にくい傾向があり、検診や人間ドック、高血圧などの他の病気で医療機関にかかっている時に見つかることが多くなっています。ときに転移病巣の症状、例えば脳転移による頭痛、骨転移による腰痛などの骨の痛みなどが最初の症状である場合もあります。また、胸痛があらわれることもありますが、これは肺がんが胸壁を侵したり、胸水がたまったりするためです。その他、肩こり、肩痛、背中の上部痛、肩から上腕にかけての痛みもまれにあります。他のがんと同様に肺がんでも、易疲労感、食欲不振、体重減少がおこります。

小細胞肺がんは種々のホルモンを産生します。そのため、まれに副腎皮質刺激ホルモンによるクッシング症候群と呼ばれる身体の中心部を主体とした肥満、満月のような丸い顔貌、全身の皮膚の色が黒くなる、血圧が高くなる、血糖値が高くなる、血液中のカリウム値が低くなるなどの症候があらわれることもあります。その他、まれに抗利尿ホルモンの産生による水利尿不全にともない、血液中のナトリウム値が低くなり、食欲不振などの消化器症状や神経症状・意識障害が出現することがあります。この他、大細胞がんでも認められることがありますが、細胞の増殖を増やす因子の産生による白血球増多症や発熱、肝腫大もあらわれることもあります。

このように肺がんの一般症状は、風邪などの症状と区別がつかないことが多いので、なかなか治りにくい咳、血痰、胸痛、喘鳴、息切れ、嗄声、発熱などを認める場合には医療機関の受診をお勧めします。喫煙歴のある40歳以上の人は、注意が必要です。

3.診断

咳、痰などの症状がある場合、最初に胸のレントゲン検査をします。次にがんかどうか、あるいはどのタイプの肺がんかを顕微鏡で調べるため、肺から細胞を集めます。通常は痰の中の細胞検査をします。
1)気管支鏡検査
痰が出ない場合、あるいは痰で診断ができない場合、気管支鏡あるいはファイバースコープと呼ばれる特殊な内視鏡を鼻または口から挿入し、喉から気管支の中を観察し、組織や細胞を採取します。この検査は通常外来で行われます。検査に先だって、検査による喉や気管の痛みを軽減するため、口腔の奥まで局所麻酔を行います。太さ5〜6mmの気管支鏡を使って、気管支の壁から細胞をとったり、組織の一部をとり、標本をつくって顕微鏡でがん細胞があるかどうか検査します。これを生検と呼びます。検査時間は約20分です。検査中は目覚めており、通常、検査後数時間以内に帰宅できます。
2)穿刺吸引細胞診(せんしきゅういんさいぼうしん)
もし病巣まで気管支鏡が届かなかったり、採取された検体が診断に十分でない場合、局所麻酔下に肋骨の間から、細い針を肺の病巣に命中させ、細胞をとります。この場合、レントゲンで透視をしながら行います。
3)CTガイド下肺針生検
コンピューターを使ったX線写真(CT)で目標を定め、針を病巣に命中させ組織をとります。採取した細胞を顕微鏡で検査します。

2)と3)の検査の場合、肺に針を刺すため針穴から肺の外に空気が漏れる場合がある(気胸:ききょう)ので、確認のため1日入院が必要です。
4)胸膜生検
局所麻酔をして肋骨の間から特殊な器具を用いて胸膜を一部採取し、がん細胞がないかどうか検査します。肺の外側に水がたまっている(胸水)場合、同様の手法で注射針を用いて胸水をとって同様に検査します。
5)リンパ節生検
首のリンパ節がはれている場合、リンパ節に針を刺して細胞を採取したり、局所に麻酔をして外科的にリンパ節を採取することもあります。採取した細胞・組織を顕微鏡下でがん細胞がないかどうか検査します。

これらの方法を用いても診断が困難な場合、外科的に組織を採取します。外科的な方法には、縦隔鏡検査と呼ばれている方法、胸腔鏡を用いる方法、胸を開く方法があります。いずれも全身麻酔が必要となります。縦隔鏡検査は首の下端で胸骨の上のくぼみの皮膚を切開し、気管前部の組織をおしのけて空間をつくり、ここに縦隔鏡と呼ばれる筒状の器具を挿入し、直接眼で見ながら気管周囲のリンパ節や近くに位置する腫瘍組織を採取するものです。胸腔鏡を用いる方法は、胸の皮膚を小さく切開し、そこから肋骨の間を通して胸腔鏡と呼ばれる内視鏡を肺の外側(胸腔)に挿入し、肺や胸膜あるいはリンパ節の一部を採取するものです。採取した組織を顕微鏡でがん細胞がないかどうか検査します。

4.病期(ステージ)

肺がんと診断されると、がんが肺から他の臓器に拡がっていないかどうか、さらに詳しい検査が必要になります。

通常行われる検査は、脳のCTあるいは磁石の原理を応用した磁気共鳴装置と呼ばれる機械を使ったMRIの検査、胸のCTあるいはMRI、腹部のCTあるいは超音波検査、骨シンチグラフィ(ラジオアイソトープを使った全身の骨のレントゲン検査)、骨髄中のがん細胞の有無を検査する胸骨や腸骨からの骨髄液の採取などです。CT検査では、よりよい診断のため、造影剤の注射を検査直前にします。さらに最近は、感度と特異性の高いポジトロンCT(PET:ペット)と呼ばれる放射性同位元素を用いた検査が、がんの診断および病気の拡がりの診断に用いられてきています。その他、一般の血液検査に加え、主に血液で腫瘍マーカーと呼ばれるがん細胞によって産生される物質の検査もします。一般的には、胎児性タンパクのCEA、小細胞がんでは、小細胞がん細胞が神経内分泌系細胞の特徴も有していることから、神経内分泌系細胞のマーカーであるNSEやProGRPを検査します。もちろん血液中の腫瘍マーカーが正常である肺がんも多数みられますし、逆に喫煙者では肺がんでなくともCEAが高値のことがあります。
1)非小細胞肺がん
がん細胞の拡がりぐあいで病気の進行を潜伏がん、0、I、II、III、IV期に分類します。
潜伏がん
がん細胞が、痰の中に見つかっているのですが、胸の中のどこに病巣があるかわからない非常に早期の段階です。
0期
がんは局所に見つかっていますが、気管支をおおう細胞の細胞層の一部のみにある早期の段階です。
Ia期
がんが原発巣にとどまっており、大きさは3cm未満であり、リンパ節や他の臓器に転移を認めない段階です。
Ib期
がんが原発巣にとどまっており、大きさは3cm以上で、リンパ節や他の臓器に転移を認めない段階です。
IIa期
原発巣のがんの大きさは3cm未満であり、がんが原発巣と同じ側の肺門のリンパ節に転移を認めますが、他の臓器には転移を認めない段階です。
IIb期
原発巣のがんの大きさは3cm以上であり、がんが原発巣と同じ側の肺門のリンパ節に転移を認めますが、他の臓器には転移を認めない段階です。あるいは、原発巣のがんが肺をおおっている胸膜・胸壁に直接およんでいますが、リンパ節や他の臓器に転移を認めない段階です。
IIIa期
原発巣のがんが直接胸膜・胸壁に拡がっていますが、転移は原発巣と同じ側の肺門リンパ節まで、または縦隔と呼ばれる心臓や食道のある部分のリンパ節に転移していますが、他の臓器には転移を認めない段階です。
IIIb期
原発巣のがんが直接縦隔に拡がっていたり、胸水があったり、原発巣と反対側の縦隔、首のつけ根のリンパ節に転移していますが、他の臓器に転移を認めない段階です。

IV期

原発巣の他に、肺の他の場所、脳、肝臓、骨、副腎などの臓器に転移(遠隔転移)がある場合です。

2)小細胞肺がん

小細胞肺がんでは、手術ができなくなってしまった進行がんで発見される場合が多いことから、限局型、進展型に大別する方法も使われています。
(1)限局型
がんは1側の肺と近くのリンパ節(縦隔のリンパ節、がんのある肺と同側の首のつけ根にある鎖骨上窩リンパ節も含む)に見つかる場合です。
(2)進展型
がんは肺の外に拡がり、がんの転移が身体の他の臓器にも見つかる場合、すなわち遠隔転移のある場合です。

5.治療

がんのある場所、がんの型、病期、今までの病気、現在かかっている病気、心臓、肺臓、腎臓や肝臓などの臓器の機能や、一般的な健康状態に基づいて治療の方法を選択します。肺がんの治療法として主に3種類のものがあります。外科療法、放射線療法、抗がん剤による治療です。
1)外科療法
肺がんが早期の場合に行われます。手術方法としては、肺の患部を部分切除する場合、肺葉切除(右肺は上葉、中葉、下葉と分かれ、左肺は上葉、下葉と分かれていますが、そのひとつか2つを切除すること)する場合、1側肺をすべて切除する場合があり、リンパ節にがんがあるかどうか確認するためにリンパ節切除も行います。しかし、多くの場合、小細胞がんでは外科手術後に抗がん剤による治療が必要になります。非小細胞がんの場合、通常、I期からIIIa期が手術の対象となりますが、心臓や肺の機能障害がある場合は手術できないことがあります。
2)放射線療法
X線や他の高エネルギーの放射線を使ってがん細胞を殺すものです。非小細胞がんの場合、手術できないI期からIIIa期、胸水を認めないIII期、小細胞がんの場合は限局型が対象となります。肺がんの場合、通常は身体の外から患部である肺やリンパ節に放射線を照射します。一般的に1日1回週5回照射し、5〜6週間の治療期間が必要です。最近では、1日2回週10回、あるいは1日3回週15〜21回照射する多分割照射も試みられています。さらに、がん病巣のみを集中的に治療し、副作用を軽減する放射線療法も行われています(詳しくは「定位放射線照射」、「粒子線治療」の項を参照して下さい)。また、放射線治療は脳にがん細胞が転移するのを防ぐために使われます。これを予防的全脳照射と呼びます。予防的全脳照射は正常の脳の機能を損なう恐れがまれにあり、治療終了後数年以降に記憶力低下などの精神神経症状があらわれることがあります。
3)抗がん剤による化学療法
化学療法はすべての病期の小細胞がんに対する最も一般的な治療です。しかし、非小細胞がんは小細胞がんに比べて抗がん剤が効きにくく、抗がん剤のみでがんが治癒することはまれです。非小細胞がんに対する抗がん剤による化学療法の多くは臨床試験の形で検討されています。化学療法は、多くの場合静脈注射や点滴静脈注射で行いますが、まれには飲み薬のこともあります。外科療法・放射線療法が局所治療と呼ばれているのに対し、化学療法は全身治療と呼ばれています。薬が血液の中に入り、血流に乗って全身をめぐり、肺のみならず、肺の外に拡がったがん細胞も殺すことができるからです。小細胞がんの場合、使用する抗がん剤は1種類ではなく、通常は2種類以上を使用します。治療期間は、通常、16〜24週間かかります。非小細胞がんに対しては標準的な化学療法はなく、臨床試験の計画書に準じて行われます。抗がん剤による治療は単独で行われることもありますが、放射線療法や外科療法と併用することもあります。非小細胞がんによく用いられる薬剤は、シスプラチン、マイトマイシン-C、ビンデシン、 イフォマイド、イリノテカン、パクリタキセル、ドセタキセル、ビノレルビン、ゲムシタビン、カルボプラチンなどです。一方、小細胞がんには多種の抗がん剤が有効であり、シスプラチン、カルボプラチン、エトポシド、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、イリノテカン、イフォマイドなどが主に用いられています。
4)内視鏡治療(レーザー治療)
気管支の内腔に発生した肺門型の肺がんに行われます。気管支鏡で見える範囲のがんにレーザー光線を照射して治療します。副作用、後遺症はまれですが、極めて限られた方が対象になります。この他「光線力学的療法」といってがん組織にとり込まれやすく光に反応しやすい化学薬品を投与後、ある種のレーザー光線を照射し肺門部の早期肺がんを選択的に治療する方法があります。
5)免疫療法など
身体の免疫機能を高めたり、がん細胞を特異的に殺す免疫担当細胞を点滴するなどの種々の免疫療法が試みられています。しかし、いずれも実験段階であり、現状では肺がんに有効な免疫療法はありません。

6.病期(ステージ)別治療

1)非小細胞肺がん
治療は主に病期により決定されます。同じ病期でも、病気の進行ぐあい、全身状態、心臓・肺機能などによって治療が異なる場合があります。
0期
次の治療のいずれかが選択されます。

  1. 外科療法
  2. レーザー治療
I期
次の治療のいずれかが選択されます。

  1. 外科療法

  2. 放射線療法(外科手術が適切でない場合)

  3. 光線力学療法の臨床試験

II期
次の治療のいずれかが選択されます。

  1. 外科療法

  2. 放射線療法(外科手術が適切でない場合)

IIIa期
次の治療のいずれかが選択されます。
  1. 外科療法

  2. 外科療法と放射線療法の合併療法

  3. 抗がん剤による化学療法後(放射線療法を合併する場合もある)に手術する臨床試験

  4. 放射線療法と抗がん剤による化学療法の合併療法(手術が適切でない場合)の臨床試験

  5. 放射線療法(外科手術や化学療法が適切でない場合)

IIIa期の非小細胞がんの治療は、外科療法・放射線療法・化学療法のいずれかを組み合わせた合併療法が主流です。治療前の検討で、手術によって完全にがん病巣をとり除くことができると判断され、体力(心臓や肺の機能、あるいは重い合併症の有無など)も手術に耐えうると判断された場合には外科手術が選択されます。その際、再発・転移の防止のために手術前後に放射線療法や化学療法が行われることもあります。手術前に化学療法(放射線療法を合併する場合もある)を行うほうが手術療法単独より優れているという報告もなされていますが確定的ではありません。また、手術後の放射線療法はかえってよくないといった報告もありますが確定的ではありません。手術に他の治療法を組み合わせる方法が優れているかどうかは、臨床試験として行われています。縦隔のリンパ節に転移のある場合は、放射線療法と化学療法の合併療法が治療の第一選択になるとともに手術の意義を再検討する研究も行われています。

一方、治療前の検討で、外科的に完全にがん病巣をとり除くことが不可能である、あるいは体力が手術に耐えられないと判断された場合には、放射線療法が選択されていました。その後、放射線療法に抗がん剤による化学療法を組み合わせた合併療法のほうが、放射線療法単独より延命に役立つことがいくつかの研究で証明されてきました。その際、再発・転移を予防するための化学療法は、放射線療法の前あるいは同時に行います。しかし、放射線療法と抗がん剤を組み合わせる場合、放射線治療中あるいは治療後に抗がん剤を組み合わせると副作用は放射線療法のみに比べると強くなるので、体力が十分でない場合は放射線療法のみが望ましい場合もあります。
IIIb期
次の治療のいずれかが選択されます。

  1. 放射線療法

  2. 抗がん剤による化学療法と放射線療法の合併療法

  3. 抗がん剤による化学療法(放射線療法を合併する場合もある)後に手術する臨床試験

  4. 抗がん剤による化学療法

IIIb期の非小細胞がんの治療は、胸水貯留を認めない場合には放射線療法と化学療法の合併療法、あるいは放射線療法単独が選択されます。まれには抗がん剤による化学療法と放射線療法の後に外科手術が行われることもあります。胸水貯留を伴っている場合、特に胸水が多量の場合には、まず肺と胸壁の間の胸腔内に管を入れて胸水を完全に排除した後、その管からあるいは全身麻酔をして胸腔鏡といわれる内視鏡を胸腔内に入れ、肺と胸壁を癒着させる薬を胸腔内に注入し、胸水が再びたまらないような治療を行います。胸水がコントロールされた後、抗がん剤による化学療法、あるいは放射線療法が選択されることもあります。


IV期
次の治療のいずれかが選択されます。

  1. 抗がん剤による化学療法

  2. 放射線療法

  3. 抗がん剤による化学療法と放射線療法の合併療法

  4. 痛みや他の苦痛に対する症状緩和を目的とした治療

通常、IV期では手術を行うことはなく、抗がん剤による化学療法が臨床試験で検討されています。明らかながんの縮小を認めることもありますが、すべてのがんを消失させることは困難です。かなりの副作用があるため、全身状態が不良な場合には化学療法ができないことがあります。また、症状に応じた放射線療法も行われます。

IV期ではがんによる症状を認めることが多く、痛みや呼吸困難などの症状を緩和するための治療が重要になります。近年の症状緩和の治療技術はかなり進歩してきており、多くの症状を軽減することが可能となっています。痛みに対してはモルヒネを中心とした治療を行うことで、8割以上は十分に痛みをとることができます(「痛み止めの薬のやさしい知識」の項を参照して下さい)。呼吸困難に対しては酸素投与が中心となりますが、自宅で酸素吸入のできる在宅酸素療法も受けられます(「呼吸困難」の項を参照して下さい)。


再発
非小細胞がんが再発、増悪した場合は、再発した部位、症状、初回治療法およびその反応になどを考慮して治療法を選択します。脳や骨の転移による症状緩和には、脳や骨への放射線療法がよく用いられます。はじめの治療の際に抗がん剤による化学療法を行っていない場合や、初回の化学療法がよく効いた場合は、化学療法が症状をコントロールするのに役立つかもしれません。その他、ホルモン剤、モルヒネなどの痛み止めを用いる症状緩和のための治療が選択されます。
2)小細胞肺がん
小細胞がんでは、限局型、進展型に大別して治療する方法が主に行われており、治療の中心は抗がん剤による化学療法です。
(1)限局型
次の治療のいずれかが選択されます。

  1. 抗がん剤による化学療法と放射線療法の合併治療
    脳転移を予防するための脳への放射線療法(予防的全脳照射)をすることもあります。

  2. 抗がん剤による化学療法
    予防的全脳照射をすることもあります。

  3. 外科手術(極めて早期の場合)、その後、抗がん剤による化学療法
    予防的全脳照射をすることもあります。


(2)進展型
次の治療のいずれかが選択されます。

  1. 抗がん剤による化学療法
    予防的全脳照射をすることもあります。

  2. 抗がん剤による化学療法と放射線療法の合併治療
    予防的全脳照射をすることもあります。

  3. 肺以外に拡がった転移による症状や苦痛を和らげるために、疼痛のある骨や顔、首のはれに対する縦隔への放射線療法を行うこともります。


(3)再発
がんが肺や他の臓器に再発した場合です。治療は次のいずれかが選択されます。

  1. 前に効果のあった抗がん剤による再治療

  2. 他の有効な抗がん剤による治療

  3. 再発部位に対する放射線療法

  4. 新薬による治療

7.治療の副作用と対策

がんに対する治療は、がん細胞のみならず、同時に正常な細胞も障害を受けることは避けられませんので、副作用・後遺症を伴います。肺がんも同様であり、特に、小細胞がんは急速に進行し致命的になりうるので、この病気に対する治療は強力に行う必要があり、そのため副作用も強くあらわれることがあります。医師はできるだけ副作用を軽減すべく努力しますが、治療に伴い種々の副作用があらわれることがあります。
1)外科療法
肺を切除した結果、息切れや、手術後半年〜1年間の創部痛を伴うことがあります。そのため手術後はライフスタイルを変える必要のある場合がまれにあります(詳しくは「肺手術後の呼吸訓練」、「呼吸困難」を参照して下さい)。
2)放射線療法
主な副作用は、放射線による一種の火傷(やけど)で、放射線治療中および治療の終わりころから症状が強くなる肺炎、食道炎、皮膚炎です。肺炎の初期症状は、咳・痰の増加、微熱、息切れです。通常、ステロイドホルモン剤を服用します。しかし、炎症が強く出た場合、長い間咳や息切れが続くことがあります。胸のレントゲン写真では、黒く映っていた肺が白くなり、侵された肺は小さくなります。これを放射線肺線維症(はいせんいしょう)と呼びます。食道炎の症状は、特に固形物の通りが悪くなり、強い場合は痛みを伴います。

食道炎に対しては、一時放射線治療の延期・中止を行い、痛みを伴う場合は食事・飲水制限をして、痛み止め剤の服用や栄養剤の点滴静注をします。かゆみを伴う皮膚炎(発赤や皮がむける)に対しては、軟こう剤を使用します。
3)抗がん剤による化学療法
用いる抗がん剤の種類によって異なり、また個人差もありますが、治療中の主な副作用は、貧血、白血球減少による感染、血小板減少による出血傾向、吐き気・嘔吐、食欲不振、下痢、末梢神経障害(手足のしびれ)、肝機能障害、腎障害、脱毛、疲労感などです。その他、予期せぬ副作用も認められることがあります。

強い白血球減少に対しては感染を防ぐため、白血球増殖因子(G-CSF)と呼ばれる遺伝子工学でつくられた白血球を増やす薬を連日皮下注射します。主に抗がん剤の注射日にあらわれる吐き気・嘔吐に対しては、吐き気止めの薬を点滴静脈注射します。脱毛、末梢神経障害に対する効果的な治療法は未だ開発されておりません。これらの副作用の大半は一時的なものであり、脱毛、末梢神経障害を除き、治療開始後2〜3週間で回復します。食欲不振は大変重大な問題となることがあります。食事が十分とれると治療による副作用にもよく耐えられる傾向にあります。それゆえ、栄養の維持は治療計画の重要な部分を占めます。食事が十分とれることは、体重減少を防ぎ、皮膚、髪の毛、筋肉、臓器の修復と形成を促進します。

8.生存率・予後

1)非小細胞肺がん
治療開始からの5年間生存する割合(5年生存率)は、がんの病期と全身状態により異なります。手術をした場合の5年生存率は、病期I期(Ia, Ib期):70%、II期(IIa, IIb期):50%、IIIa期:25%、IIIbあるいはIV期:10%未満といわれています。しかし、5年生存率はがん治療成績のひとつの目安であり、他の生存期間の解析による治療の評価も行われています。手術が適切でないIII期、IV期の場合、長期生存する方はまれです。
2)小細胞肺がん
限局型の場合、治療開始後3年間再発しない方は15〜25%です。進展型の場合、3年の間に再発しない方はまれです。

しかし、これは統計学的な平均的数字であり、個々にあてはまるものではありません。予後は、がんのタイプ、がんの病期(がんが肺の中だけにあるのか、他の臓器に拡がっているのか)、生活能力などの一般的な健康状態に深く関連しています。

以上のように、標準的治療により完全に治る肺がんは多くなく、また、標準的治療にもさまざまな副作用があります。このため、最新のがん研究情報に基づき、よりよい治療法を検討するための臨床試験が行われています。

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